電子部品や医薬品製造など、高度な洗浄工程では「どのような水を使うか」が製品品質を大きく左右します。その中でも特に注目される指標がTOC(Total Organic Carbon:全有機炭素)です。
TOC値が高い水を使用すると、表面への有機物残留や再汚染のリスクが高まり、不良や歩留まり低下につながる恐れがあります。
この記事では、洗浄に使用する水のTOC値を下げるための具体的な方法や装置構成、管理のポイントについて詳しく解説します。
洗浄工程では低いTOC値が求められている
TOC(Total Organic Carbon)値とは、水中に含まれる有機物の総量を炭素量で示したもので、水質管理における重要な指標のひとつです。
特に超純水や電子産業、製薬業界では極めて低いTOC値が求められます。
TOC値の高い水で洗浄した場合の影響
部品洗浄に用いる水のTOC値が高いと、以下のような問題が発生します。
1. 有機物残留による表面汚染
洗浄後に水滴が蒸発すると、有機炭素が部品表面に残留し、油膜のような曇りや汚れの原因となります。
2. 接着・塗装・コーティング不良
部品に有機残渣が残ることで、後工程で行う接着剤や塗装の密着性が低下し、剥離や気泡、色ムラが発生するリスクが高まります。
3. 電気特性への悪影響(電子部品)
有機物が絶縁不良を引き起こす原因になり、特に高電圧・高周波回路ではリーク電流やノイズ発生に直結します。
4. 微生物の繁殖リスク
TOC値が高い水は微生物の栄養源となるため、洗浄装置内や配管内でバイオフィルムが形成される恐れがあります。
5. イオン交換樹脂やRO膜の性能低下
TOCが高い水を使い続けると、純水製造工程(RO膜や混床樹脂)への負担が大きくなり、処理能力の低下や寿命短縮につながります。
TOC値が高くなる原因は?
TOC値を下げる方法
1. 活性炭フィルターの設置
水中の有機物を吸着除去するために、粒状や粉末の活性炭フィルターが効果的です。特に初期段階でのTOC低減に有効です。
2. 紫外線(UV)酸化処理
185nm波長の深紫外線を使用することで、水中の有機物を分解し、二酸化炭素に変換する処理方法です。TOCの分解効率が高く、超純水装置にも標準搭載されることが多いです。
3. RO(逆浸透)膜による除去
TOCの分子量は比較的大きいため、RO膜を通すことで約95%以上の有機物を除去可能です。ただし、単体では十分ではなく、後工程と組み合わせる必要があります。
4. 混床イオン交換樹脂の最適管理
純水製造装置では、TOCの再汚染を防ぐため、樹脂の交換サイクル管理が重要です。特に使用済み樹脂からの有機物溶出がTOC上昇の原因となることがあります。
5. 定期的なシステム洗浄とバリデーション
配管やタンクのバイオフィルム、蓄積汚れなどを防ぐため、定期的な薬品洗浄(CIP)や蒸気滅菌(SIP)を実施することが必要です。
対策と管理の重要性
TOC値の管理が求められる工程例
使用水のTOC測定の推奨
定期的なTOCモニタリングにより、洗浄水の品質を常に確認し、不具合の未然防止につなげることが重要です。オンラインTOCアナライザーの設置も有効です。
TOC管理におけるポイント
TOC測定装置の比較一覧
メーカー | 装置名 | 測定方式 | 測定範囲 | 特徴 | 公式リンク |
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島津製作所 | TOC-Lシリーズ | 高温燃焼触媒酸化法 | 4 μg/L~30,000 mg/L | 広範囲な測定、固体サンプルにも対応 | 公式サイト |
東ソー・アナリティカル | TOC-1000e | 紫外線酸化+NDIR法 | 0.5 μg/L~1 mg/L | 超純水向け、超低濃度に特化 | 公式サイト |
GE/Sievers(SUEZ) | M5310 C TOC Analyzer | UV/過硫酸酸化+導電率検出 | 0.03 ppb~50 ppm | 製薬や電子材料業界に強い | 公式サイト |
日立ハイテク | TOC-3000H | 燃焼酸化法 | 0.1~10,000 mg/L | 排水や工業用水の監視に最適 | 公式サイト |
ハック(Hach) | BioTector B7000 | 湿式酸化法+NDIR法 | 0–30,000 mg/L | 高汚濁サンプルに対応、信頼性高 | 公式サイト |
まとめ
TOC値の管理は、高度な水処理現場において欠かせない品質保証の一部です。複数の工程を組み合わせて段階的に除去を行うこと、そして設備全体のメンテナンスや管理体制の構築が、低TOCの安定運用につながります。