純水装置やEDIシステムにおいて、原水中に含まれる二酸化炭素(CO₂)は、装置の性能を著しく低下させる要因のひとつです。
特にCO₂は水中でイオン化しやすく、イオン交換樹脂や電気再生式イオン交換装置(EDI)の負荷を増大させるため、処理効率の低下やランニングコストの上昇につながります。こうした課題に対応するために導入されるのが「脱炭酸塔(デガッサー)」です。
本記事では、脱炭酸塔の基本的な仕組みから、導入による効果、導入費用の目安、さらに主要メーカーごとの比較までを徹底的に解説します。純水装置の性能向上や維持コストの削減を検討している方にとって、実践的で有益な情報をお届けします。
純水装置における脱炭酸塔とは?
脱炭酸塔(デガッサー)は、純水装置の前処理工程やEDI(電気再生式イオン交換)装置の前段で使われる機器で、原水に溶け込んだ二酸化炭素(CO₂)を効率的に除去するための設備です。
二酸化炭素はイオン化しやすく、イオン交換樹脂やEDIモジュールの負荷を高めるため、事前に除去することで処理効率とランニングコストを大幅に改善できます。
なぜ脱炭酸塔が必要なのか?
水に溶け込んだ二酸化炭素(CO₂)は、水中で炭酸(H₂CO₃)や重炭酸イオン(HCO₃⁻)として存在し、純水装置にとっては“見えないイオン負荷”となります。これらの成分はイオン交換樹脂やEDIモジュールによって除去されますが、樹脂の寿命を縮め、再生頻度や電力量を増加させる原因にもなります。
特にEDI装置は、通水中のイオン成分が少ないほど効率的に動作するため、CO₂のように電荷を持ちやすい酸性ガスの除去は極めて重要です。CO₂をあらかじめ脱炭酸塔で物理的に除去しておくことで、以降の純水製造プロセスにおいて以下のような効果が得られます。
脱炭酸塔を設置するメリット
つまり、脱炭酸塔は単なる補助機器ではなく、純水システム全体の性能と経済性を大きく左右する重要な構成要素なのです。特に原水中に高濃度のCO₂を含む地下水や井水を使用する場合、その必要性はさらに高まります。
脱炭酸塔のメカニズム
脱炭酸塔は、塔内部に充填された充填材に原水を流下させ、下部からブロワーなどで送風することにより、ガスと液体の接触面積を最大化してCO₂を気相へ移行させます。これは「ストリッピング」と呼ばれる操作で、化学薬品を用いずにガスだけで除去できる物理的手法です。
脱炭酸塔の構成要素
構成要素 | 役割 |
---|---|
塔本体 | FRPやPVCなど耐腐食素材で作られる塔型構造 |
充填材 | ガスと水の接触面を広げる素材(例:ハニカム、リング状) |
ブロワー | 下部から空気を送り込み、CO₂をガス化させる |
ミストセパレーター | 塔上部で水分の飛散を防ぎ、ブロワーを保護 |
脱炭酸の反応式(基礎化学)
水に溶け込んだCO₂は以下のように炭酸・重炭酸イオンに変化します:
CO₂ + H₂O ⇌ H₂CO₃ ⇌ H⁺ + HCO₃⁻ ⇌ 2H⁺ + CO₃²⁻
このイオン化により、純水装置の導電率が上がり、イオン交換樹脂やEDIの負荷が増加するため、CO₂はできるだけ前段で除去するのが理想です。
脱炭酸塔の導入費用
脱炭酸塔の費用は処理能力(m³/h)と材質、設備構成によって異なります。以下はおおよその費用レンジです。
処理能力別の費用目安
処理能力(m³/h) | 本体価格(目安) | 備考 |
---|---|---|
1〜3 m³/h | 約60万円~100万円 | 小規模実験室や医療機関向け |
5〜10 m³/h | 約150万円~250万円 | 中規模工場、製薬ラインなど |
20 m³/h以上 | 300万円以上 | 大規模生産用。ブロワーや制御盤含む |
主要メーカーと製品比較
国内で使用される主な脱炭酸塔メーカー
メーカー名 | 製品名・シリーズ | 特徴 | 主な用途 |
---|---|---|---|
オルガノ | オルガノ脱炭酸塔シリーズ | FRP製、設計自由度が高くEDI前処理に最適 | 製薬・電子部品・ボイラー補給水 |
栗田工業 | KURITA DGTシリーズ | 大型対応、運転制御が高精度 | 電力・化学工場ライン |
日本濾水機工業 | JCシリーズ | 低コスト、簡易設計、中小向け | 産業排水の再利用ライン |
日本ポール | カスタム型脱ガスユニット | フィルター一体構成も可能、ステンレス対応可 | 半導体製造・精密洗浄工程 |
まとめ:脱炭酸塔の導入で純水装置の効率向上を
脱炭酸塔は、EDIやイオン交換樹脂の寿命を延ばし、純水製造コストの削減につながる重要な補助装置です。設備導入にはイニシャルコストがかかりますが、運転効率の改善や薬品コストの削減といったメリットも大きく、特に高純度水を求める現場では必須の存在といえます。処理水の性状に応じて最適な構造や材質、処理方式を選定することが、長期的な品質と経済性の両立に繋がります。