ろ過マイスター

液体のろ過、純水など、元フィルターメーカーの営業マンが情報を発信するブログ

工業用フィルターカートリッジの価格が上がる理由とコスト削減のための対策

工場やプラント、浄水施設など、さまざまな産業現場で使用される「工業用フィルターカートリッジ」。

水・薬液・空気などのろ過工程に欠かせないこの部品の価格が、近年じわじわと上昇していることに気づいている方も多いのではないでしょうか。

かつては消耗品として定期交換が当たり前だったカートリッジも、今では「高い」と感じられるほどコスト負担が増してきています。

本記事では、その価格が上がっている背景や具体的なデータ、今後の動向、さらには選定の際に重要となる“トータルコストパフォーマンス”について詳しく解説していきます。

■この記事を書いた人■
元水処理・フィルターメーカーの営業マン。15年間の勤務経験を活かし、ろ過や水処理について情報を発信中。現在は、フリーで工場のろ過、水処理のコンサルタントを行っている。一男一女の父。46歳。

工業用フィルターカートリッジの価格上昇を支える具体的データとは?

近年、工業用フィルターカートリッジの価格が上昇しています。その要因は複合的であり、ここでは代表的な数値データとともに背景を明確にします。

 原材料価格の高騰

時期 地域 ポリプロピレン価格(USD/MT)
2024年第1四半期 米国 1,050
2024年第2四半期 米国 1,230
2024年第3四半期 ドイツ 1,246

フィルター素材として主に使われるポリプロピレン(PP)の価格は、2024年を通じて20%以上上昇しており、これが製品価格に大きく影響しています。

市場規模の拡大(需要の増加)

メルトブローンPP市場規模(億USD)
2023年 40.2
2024年 42.5
2030年(予測) 59.9

このメルトブローンPPは、高性能フィルター素材の中心的存在であり、産業用途や医療用途でのニーズ増加が価格を押し上げる要因となっています。

物流コストの上昇

原油高騰や紅海危機、サプライチェーンの混乱などにより、輸送コストが上昇しています。これに伴い、海外から輸入されるフィルターカートリッジの単価も上昇傾向にあります。

まとめ

工業用フィルターカートリッジの価格上昇には、以下の要因が重なっています。

  • 原材料(ポリプロピレン)価格の上昇
  • 世界的な需要拡大と市場の成長
  • 物流コストや為替の影響

これらの背景から、企業は価格だけでなく製品の性能・寿命・供給安定性を含めた総合的な視点で選定を行うことが求められています。

今後のフィルターカートリッジの価格動向と予測

工業用フィルターカートリッジの価格は、短期的には高止まりが続く可能性が高いと見られています。その背景には、以下のような継続的な要因があります。

  • 原材料価格の不安定さ原油や化学系原料の需給は中東情勢や国際情勢に左右されやすく、予測が難しい状況です。
  • EV・半導体・医療業界からの需要増:超純水やクリーンな製造環境が求められる業界での需要が加速し、フィルター材の取り合いが続く可能性があります。
  • 環境規制強化による製品改良・高付加価値化:再生素材や脱炭素対応など新技術の導入によって、価格がさらに上がる傾向に。

一方で、中長期的には以下の要素が価格安定または緩和要因として働くことも期待されます。

  • アジア圏での新興メーカーの台頭:競争が活発化することで価格抑制圧力が生まれる可能性。
  • 国産フィルター製造の再評価:為替変動リスクを抑えるため、国内生産回帰の動きが進めば、一定の価格安定につながることも。
  • 代替素材や製造技術の革新:ナノファイバーやバイオマス材料など、新しい素材の普及がコスト低減に貢献する可能性。

今後の市場は、「単価の安さ」よりも「トータルコストパフォーマンス」「供給安定性」「環境対応」といった複合的な価値に基づく選定へと移行していくことが予想されます。購買担当者や設備管理者は、価格動向に加え、製品の寿命・納期・トレーサビリティなども含めた評価軸を持つことが重要です。

トータルコストパフォーマンスとは?フィルター選定の新しい基準

「トータルコストパフォーマンス(Total Cost Performance)」とは、単純な購入価格の安さではなく、フィルターの寿命、交換頻度、稼働率、メンテナンスコスト、廃棄費用、トラブルによる損失リスクなど、すべての要素を含めた“総合的なコスト効率”を意味します。

具体的な比較例

項目 安価なフィルター 高性能フィルター
購入単価 1,000円 2,500円
使用可能期間 2週間 6週間
年間交換回数 26回 8〜9回
交換作業コスト(1回あたり) 3,000円 3,000円
年間フィルター代 26,000円 22,500円
年間交換作業コスト 78,000円 27,000円
合計年間コスト 104,000円 49,500円

このように、初期購入単価が安くても、交換回数が多ければ人件費や停止時間などの間接コストが膨らみ、結果的に「安くない」選択になってしまうことがあります。

トータルコストで見るべき指標

  • フィルターの寿命(ろ過容量、圧力損失増加のタイミング)
  • 交換作業の頻度・人件費・機械停止リスク
  • メンテナンスや洗浄対応の有無
  • 廃棄コスト(産廃処理費用・重量)
  • 納期の安定性・バックアップ体制

価格が高いフィルターでも、総合的に見ると年間コストが抑えられるケースは少なくありません。特に工場やプラントの安定稼働が求められる現場では、トータルコストパフォーマンスの視点での選定が不可欠です。

おすすめの工業用フィルターカートリッジメーカー一覧

メーカー名 特徴 主な用途 対応ろ材 公式サイト
JNCフィルター株式会社 国内有数のメルトブローン式フィルター専門メーカー 純水製造、塗料、薬液、食品、電子部品 ポリプロピレン、PE、PET、ナイロン 公式サイト
ゼット工業株式会社 糸巻き・活性炭・高性能カートリッジを多数展開 水処理、化学プラント、食品、メッキ液 綿糸、活性炭、不織布、セラミック 公式サイト
三菱ケミカル・アクアソリューションズ 水処理・工業用フィルターのラインアップが広い 工場排水、純水、冷却水、食品 ポリエステル、PP、セラミック 公式サイト
オルガノ株式会社 水処理エンジニアリングで豊富な実績 産業用水、ボイラー給水、超純水 PP、ナイロン、アラミド 公式サイト
パーカー・ハネフィン(Parker) 海外大手。グローバル供給と耐薬品性に強み 石油化学、バイオ医薬、半導体 PTFE、ガラス繊維、ステンレス 公式サイト
アズワン株式会社 汎用カートリッジが豊富で研究用途にも対応 研究機関、ラボ、中小工場 メルトブローン、PP、PE 公式サイト
GEヘルスケア(現Cytiva) 医療・バイオプロセスに強い精密ろ過ブランド 製薬、食品、清浄水、培養液 ポリサルフォン、PVDF、PTFE 公式サイト
Pall(ポール) 世界的な高性能フィルターメーカー 半導体、医薬、石油化学 ガラス繊維、PTFE、ナイロン 公式サイト

フィルター選定では、「価格」だけでなく「ろ過精度」「交換頻度」「耐薬品性」「納期の安定性」など多面的な要素を加味し、トータルコストパフォーマンスの高いメーカーを選ぶことが重要です。

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