純水(ピュアウォーター、超純水)は、電子部品製造や医薬品、分析用途などで使用される極めて高純度な水ですが、その水質基準において「電導率(conductivity)」は非常に重要な指標の一つです。
一方で純水の電導率は明確に定義されておらず、純水の水質を「何となく」で管理されている工場も少なくありません。
本記事では、純水の電導率の基準値や測定原理、純度との関係、実用的な管理方法などを詳しく解説します。
- 電導率とは?水の純度を数値で表す指標
- 純水の電導率「いくつから?」と判断すべきか
- 測定における注意点
- 純水の使用分野と求められる電導率
- 電導率と比抵抗の関係
- まとめ:純水の電導率の理解は品質管理の基本
電導率とは?水の純度を数値で表す指標
電導率の基本的な意味
- 電導率(μS/cmまたはμS・ミクロジーメンス毎センチメートル)は、水中のイオンの量に比例して電気を通す能力を示す指標です。
- 電導率が高い=水に不純物(主にイオン)が多く含まれている状態。
- 逆に電導率が低いほど、水が純水に近くなります。(きれいな水)
電導率と水の分類
水の種類 | 電導率(μS/cm) | 説明 |
---|---|---|
水道水 | 100〜500 | 地域や配管素材により変動 |
RO水(逆浸透膜処理水) | 10〜50 | ほとんどの不純物を除去 |
純水 | 0.1〜1.0 | イオン交換樹脂や精密ろ過による処理 |
超純水 | 0.055以下 | 理論上の最も純粋な水に近い |
純水の電導率「いくつから?」と判断すべきか
一般的な純水の基準
- 「純水」は一般に電導率が1.0 μS/cm以下であることが目安。
- 「超純水」は0.055 μS/cm(25℃)が理論上の限界とされる。
- 測定温度によっても値は変動するため、25℃基準が一般的。
多くの純水装置メーカーが1μS/㎝以下を純水と定義しているようですが、明確な基準はありません。
電導率の単位と温度補正
- μS/cmは「マイクロジーメンス毎センチメートル」を意味します。
- 水の電電率は温度が高くなると上昇するため、標準化された測定には温度補正が必須。
電導度は水温により数値の影響を受けるため、温度補正(電導率が換算)付きのセンサーを使用した方が良いですが、そこまでの計測機器を使用していない純水装置も多いですね。
純水を使用している工程がシビアであれば、温度補正付きの電導率計が必要ですが・・
純水装置メーカー別の水質(導電率)基準一覧
メーカー名 | 水質基準(導電率) | 対象製品/用途 | 公式サイト |
---|---|---|---|
オルガノ | 0.1~0.5 μS/cm | 純水装置(AQUADEMシリーズ) | オルガノ公式 |
栗田工業 | 0.1~0.3 μS/cm | 純水/超純水装置(KURITA Pure Water) | 栗田工業公式 |
三浦工業 | 0.1~0.2 μS/cm | MELRO・MELRO-EDIシリーズ | 三浦工業公式 |
メルクミリポア | 0.055 μS/cm(18.2 MΩ・cm) | 超純水装置(Milli-Qシリーズ) | メルクミリポア公式 |
ヤマト科学 | 0.5~1.0 μS/cm | 小型純水製造装置(Auto Stillシリーズ) | ヤマト科学公式 |
日東工器 | 0.1~0.5 μS/cm | 産業用純水装置 | 日東工器公式 |
東レ | 0.2~0.5 μS/cm | RO+EDI装置(産業用) | 東レ公式(水処理) |
測定における注意点
純水測定は精密管理が必須
- 純水は非常に導電率が低いため、一般的な電導率計では測定誤差が大きくなります。
- 専用の高感度電極(2極または4極)を用いる必要があります。
- サンプルは外気に触れると瞬時にCO2を吸収してイオン濃度が上がるため、密閉測定が推奨されます。
純水の使用分野と求められる電導率
分野 | 求められる電導率 | 理由・特徴 |
---|---|---|
半導体製造 | 0.055 μS/cm以下 | ナノレベルの異物も製品不良の原因となるため |
医薬品・注射用水 | 1.3 μS/cm以下(USP基準) | 体内に入れる水の安全性を確保 |
化粧品・洗浄水 | 0.1〜1.0 μS/cm | 肌への刺激を避けるため中性で純度の高い水が必要 |
分析用溶媒 | 0.1以下が望ましい | 分析結果に影響を及ぼさないことが重要 |
電導率と比抵抗の関係
比抵抗(resistivity)との変換
- 電導率の逆数が比抵抗(単位:MΩ・cm)です。
- たとえば:0.055 μS/cm ⇔ 18.2 MΩ・cm(25℃における理論純水)
理論値の確認
電導率(μS/cm) | 比抵抗(MΩ・cm) |
---|---|
1.00 | 1.00 |
0.10 | 10.0 |
0.055 | 18.2(理論値) |
参考文献
- ASTM D1125 – Conductivity of Water Standard
- USP <645> Water Conductivity Standards for Purified Water
- 一般社団法人日本産業用水協会「超純水の基準と水質管理」
- メルク「Milli-Q水の導電率と比抵抗に関する技術資料」
まとめ:純水の電導率の理解は品質管理の基本
- 純水の電導率は「0.1〜1.0 μS/cm」が目安で、超純水では0.055 μS/cm以下が理想。
- 測定には高感度の導電率計・密閉サンプリングが必要。
- 使用分野ごとに求められる純度は異なるため、目的に応じた電導率管理が重要。
- 電導率は水のイオン濃度を示す客観的指標であり、製品の安全性・精度に直結します。
純水の電導率を正しく理解し、用途に応じた適切な管理を行うことで、製造品質や分析精度を保つことができます。これはすべての純水ユーザーにとって、極めて重要なポイントと言えるでしょう。
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