工業用水は、工場内での冷却・洗浄・加熱・原材料処理など、さまざまな用途に使用されますが、その品質や処理工程により製品の出来栄えや設備の寿命に大きく影響を及ぼします。特に水中の異物や有機物、微生物、金属イオンなどの不純物は、設備の腐食や汚染、トラブルの原因となるため、ろ過(フィルトレーション)による前処理が重要となります。
この記事では、工業用水のろ過に使用される代表的な方式と、それぞれの特長や用途をわかりやすく解説します。
工業用水のろ過が必要な理由
ろ過とは、水中に含まれる微粒子・汚濁物・化学物質などを取り除く工程であり、目的に応じて異なる方式が使い分けられます。工業用水をろ過する主な目的は以下の通りです。
- 設備の腐食・目詰まり・摩耗の防止
- 製品の品質向上(特に洗浄工程)
- 微生物・菌類の除去による衛生管理
- 冷却・加熱効率の維持
- 水の再利用・省資源化の推進
ろ過レベルは「初期除去(粗ろ過)」から「精密ろ過」「超純水製造」までさまざまで、使用する装置やフィルター材も用途ごとに選定する必要があります。
水道水と工業用水の違い
日本の産業や日常生活を支える「水」には、用途に応じてさまざまな種類があります。その中でも特によく比較されるのが「水道水」と「工業用水」です。水道水と工業用水の違いを分かりやすく整理してみると
水道水とは
- 人の飲用を前提とした「飲料適合水」
- 水道法に基づき、51項目以上の厳しい水質基準に適合している
- 上水道(浄水場など)を通じて、家庭や企業に供給される
- 浄水処理には沈殿・ろ過・消毒(塩素処理)が施されている
水質基準(例)
項目 | 基準値 |
---|---|
残留塩素 | 0.1mg/L以上 |
一般細菌 | 100個以下/mL |
大腸菌 | 検出されないこと |
pH | 5.8〜8.6 |
出典:厚生労働省「水道法に基づく水質基準」
工業用水とは
- 主に製造業・工場向けに供給される非飲用の水
- 水道法の水質基準は適用されない(飲用不可)
- 原水は河川水、湖沼水、地下水など
- 簡易な沈殿処理やろ過のみで供給されるケースも多い
水質基準(目安)
項目 | 目安 |
---|---|
濁度 | 50度以下 |
鉄 | 1mg/L以下 |
pH | 5.8〜8.6(目安) |
出典:経済産業省「工業用水道事業の現状と課題」
水道水と工業用水の違いの比較表
項目 | 水道水 | 工業用水 |
---|---|---|
主な用途 | 飲用・生活用水 | 製造業・冷却・洗浄 |
水質基準 | 水道法に準拠(飲用基準) | なし(各事業者が管理) |
原水 | 河川水・湖水・地下水 | 同左だが浄化処理が簡易 |
供給元 | 市町村水道局 | 工業用水道事業(自治体・国) |
単価 | 高い(品質が高いため) | 安価(簡易処理のため) |
飲用可能性 | 可 | 不可 |
工業用水における主なろ過方式
工業用水における主なろ過方式と特徴
ろ過方式 | ろ過対象 | 特長 | 用途例 |
---|---|---|---|
スクリーンフィルター | 大きな異物・ゴミ | 初期除去用でメンテナンスも容易 | 工場の原水処理、冷却水前処理 |
デプスフィルター | 微細な粒子・スラッジ | ろ材に厚みがあり高保持力 | 洗浄水、塗装工程、冷却水 |
活性炭フィルター | 臭気・有機物・塩素 | 吸着除去に優れたフィルター | 冷却水・洗浄水・再利用水 |
バッグフィルター | 中~高流量の懸濁物 | 流量に応じた処理が可能 | 大型装置・排水前処理 |
カートリッジフィルター(メンブレン) | 微生物・サブミクロン粒子 | 高精度ろ過に対応 | 精密洗浄・医薬・電子材料 |
RO膜(逆浸透膜) | 溶解性不純物・イオン | ほぼ純水に近いレベルまで除去 | 純水製造、ボイラー給水 |
ろ過方式別の詳細解説
スクリーンフィルター
金属または樹脂製のメッシュで構成されており、大きなゴミや砂、スラッジを物理的に取り除きます。自動洗浄機能を備えたモデルもあり、前処理として多くの工場で利用されています。
デプスフィルター
厚みのあるろ材により、粒子を層内に捕捉しながらろ過します。フィルター寿命が比較的長く、メンテナンス頻度も少ないため、洗浄・塗装ラインの工程水や冷却水によく使われます。
活性炭フィルター
有機物や臭気成分、塩素を吸着により除去します。再生処理ができない使い捨てタイプが多いですが、水の再利用においては極めて有効な手段となります。
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バッグフィルター
処理流量の大きい工程に適しており、交換が簡単。液体中の浮遊物や懸濁物を取り除くため、排水処理や装置前処理に多く使われています。
カートリッジフィルター(メンブレンタイプ)
ろ過精度が高く、1μm以下の微粒子や微生物まで除去可能です。医薬品製造、電子部品洗浄、精密機械工程など、クリーン度の高い用途に最適です。
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RO膜(逆浸透膜)
高圧で水を押し出すことで、イオンや溶解性不純物を除去。非常に高精度なろ過が可能で、超純水製造やボイラー水に用いられますが、コスト・運用管理も求められます。
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導入時の検討ポイント
- 対象とする不純物の種類とサイズ
- 必要な処理流量とろ過精度
- フィルターの交換頻度やランニングコスト
- 水質分析に基づくろ過システムの組合せ
ろ過だけでなく、凝集剤の添加やpH調整、UV殺菌などの補助処理を組み合わせることで、より効率的で安全な水処理が実現できます。
まとめ
工業用水のろ過は、製造ラインの安定稼働や製品品質の向上、省資源化を実現する上で欠かせないプロセスです。スクリーン、デプス、活性炭、バッグ、カートリッジ、RO膜といった各ろ過方式にはそれぞれ役割があり、水質・目的に合わせて適切に選定することが重要です。
水処理システムを新たに構築する場合や見直す場合は、事前の水質調査と専門家のアドバイスを受けたうえで、最適なフィルター構成を設計しましょう。