ろ過マイスター

液体のろ過、純水など、元フィルターメーカーの営業マンが情報を発信するブログ

【下水処理場の排水は安全?】川の水質と生態系の実態とは

都市部を流れる川の中には、下水処理場から放流された処理水が合流している場所があります。こうした川では、見た目はきれいでも独特の生態系や水質の特徴が見られることがあります。

「藻が多い」「魚が大きい」「水鳥が多い」など、一般的な自然河川とは異なる様子に驚く人も少なくありません。

本記事では、下水処理場の近くの川に見られる主な特徴と、それが生まれる理由について解説します。

■この記事を書いた人■
元水処理・フィルターメーカーの営業マン。15年間の勤務経験を活かし、ろ過や水処理について情報を発信中。現在は、フリーで工場のろ過、水処理のコンサルタントを行っている。一男一女の父。46歳。

下水処理場の役割とは?

下水処理場では、生活排水や工場排水などを処理して、川や海に流しても問題のないレベルに浄化しています。

日本の下水処理技術は世界的にも非常に高く、BOD(生物化学的酸素要求量)やSS(浮遊物質)などの数値は厳格に管理されています。

処理水は一見きれいだが…

下水処理場から放流される処理水は、見た目には透明でにおいも少なく、一見「きれいな水」に見えます。実際、都市の多くの河川では、処理水が流れ込んでいるにも関わらず水質基準をクリアしており、生き物も多く生息しています。

処理水でも含まれる可能性があるもの

  • 微量の医薬品成分やホルモン物質(現代の処理技術では完全に除去できない)
  • 家庭から流れ出るマイクロプラスチック
  • 窒素やリン(富栄養化の原因となる)
  • 重金属

これらは極微量ですが、環境への影響がゼロとは言い切れません。

標準処理と高度処理の違い

日本の下水処理場では、「標準活性汚泥法」という微生物による処理が基本ですが、近年では次のような高度処理も導入されています。

  • 脱窒処理:窒素を窒素ガスにして除去(富栄養化の防止)
  • 脱リン処理:化学薬剤や特殊な微生物でリンを除去
  • オゾン・活性炭処理:医薬品成分や微量化学物質の除去に有効

特に都市部や湖沼の近くでは、こうした高度処理が導入され、水質保全に大きく貢献しています。

下水処理水の水質基準一覧(日本)

項目 基準値 主な目的 コメント
BOD 20 mg/L 以下 水の有機汚濁の指標 生物にとって安全な水環境を保つ指標
COD 40 mg/L 以下 有機物の化学分解の指標 化学物質汚染の評価に使用
SS 30 mg/L 以下 水中の粒子状物質 水の濁りや沈殿に関係
大腸菌群数 3000 個/L 以下 衛生的な安全性 飲料や再利用用途では特に重要
pH 5.8 ~ 8.6 酸性・アルカリ性のバランス 生態系保全に必要な中性域
窒素(T-N) 20 mg/L 以下 富栄養化防止 藻類繁殖や赤潮防止に重要
リン(T-P) 1~2 mg/L 以下 富栄養化防止 脱リン処理の導入が進む

実際の放流水の水質データ(例)

東京都内の某処理場(2024年夏)のデータ:

  • BOD:5.2 mg/L
  • SS:9 mg/L
  • 大腸菌群数:900 個/L
  • pH:7.1

すべての項目で基準を大きく下回っており、安全性の高い処理水が放流されています。

雨天時は注意が必要

合流式下水道のある地域では、雨が降ると未処理の汚水が河川に放流される「越流水」のリスクがあります。

  • 大雨後は処理能力を超えることがあり、一時的に水質が悪化することも
  • 川遊び・釣りは晴天が続いたタイミングを選ぶのが安心

下水処理場の近くの川の魚は食べられるのか?

結論から言えば、処理水が流れ込む川に生息する魚でも、見た目や生育環境が良好であれば食べられることもあります。ただし、以下の点に注意が必要です。

注意すべきリスク

  • 重金属や有害物質の蓄積
  • 医薬品・ホルモン類の残留
  • 富栄養化による異臭や味の変化
  • 地域ごとの採捕制限や条例違反の可能性

魚の種類によるリスクの違い

  • 底魚(コイ・ナマズ:川底の汚染物質を取り込みやすく、体内蓄積リスクが高め
  • 中層~回遊魚(オイカワ・ハヤなど):比較的清浄な水域に住むことが多く、リスクが低め

食用にする場合のポイント

  • 自治体の採捕規制や水質情報を事前確認
  • 異臭・変色がないかをチェック
  • 必ず加熱調理(寄生虫や細菌対策)
  • 可能であれば自然河川や上流で釣った魚を選ぶ

魚介類と生物濃縮のリスク

わずかな有害物質でも、植物プランクトン→小魚→大型魚→人間という食物連鎖を通じて生物濃縮(バイオマグニフィケーション)が起こる可能性があります。特に六価クロムカドミウム、水銀などの重金属は体外へ排出されにくいため、定期的に魚を食べる場合は注意が必要です。

下水処理場の近くの川で見られる主な特徴

  • 藻が多い:栄養塩分がわずかに残っており、富栄養化で藻が繁茂
  • 魚が大きい:コイ、ナマズ、フナなどが大きく成長しやすい
  • 水生植物が豊富:ガマ、ヨシなどの大型植物が見られる
  • 水が濁りやすい:沈殿物や藻の死骸で白濁することも
  • 冬でも水温が高い:処理水は比較的温かく、水生生物の越冬環境に
  • 発酵臭やヘドロ臭がすることがある
  • 水鳥が多く集まる:カモ、サギなどが魚や虫を目当てに飛来

処理水の再利用が進んでいる

処理水はそのまま放流されるだけでなく、以下のように再利用される例も増えています:

  • 公園やトイレの洗浄水
  • 農業用水(ハウス栽培の灌漑など)
  • 工場の冷却用水や洗浄用水

水資源を無駄にせず再利用する取り組みが、自治体・企業で進められています。

下水処理場の近くの川の水質は「概ねきれいだが…」

日本の下水処理場は高性能で、放流水はほとんどが水質基準を満たしています。しかし、雨天時や河川の流れの有無、汚泥の蓄積状況によっては局所的な悪化もあります。

川遊び・釣り・水辺の活動を安全に楽しむためには、自治体の水質情報を確認し、天候や周囲の状況をよく観察することが大切です。

よくある質問(FAQ)

Q:処理水は飲めるの?

A:処理水は飲用には適していません。再利用する場合も非飲用(水洗トイレ、散水など)用途に限られます。

Q:魚を釣って食べても本当に大丈夫?

A:魚の種類や調理法、地域の水質によってリスクは変わります。安全性を重視するなら自己責任で判断しましょう。

Q:処理水の臭いが気になることはある?

A:処理水そのものはほぼ無臭ですが、流入先の河川で藻類の発酵やヘドロ化が進むと、臭いが発生することがあります。

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